第22章 身を立て名を上げ、やよ励めよ
ライバル意識なんて優しいものじゃない。
これは、もっと猥雑で卑劣な感情。
妬み嫉みともまた違う。
言い表せないこの感情を、なんと呼ぼう。
「飯田くん、ごめん!実はさ…」
委員長へと返り咲いた次の日。
麗日が、申し訳なさそうに飯田に謝罪してきた。
「あの時、まるで私が投票したみたいな言い方したんだけど…ごめん、あれ私じゃないんだ!」
「なっ、そうだったのか!?」
「言いづらくて…でも、無事委員長になれたみたいだったから、ちゃんと謝れて良かったよ!タイミング逃しちゃうところだった」
飯田に投じられた、あの1票の投票者。
麗日の申し出を聞き、飯田の頭の中に浮かんだ候補は2人。
他の委員にさえ、全くの執着を見せなかった轟と、向だ。
「俺が入れたのは八百万だ。おまえに投票したのは、向だろ」
そう証言する轟が嘘をつく理由など、飯田には思い浮かばなかった。
けれど、飯田は昨日、向に「麗日が投票してくれた」という発言をしてしまった後だ。
その誤解を、なぜ向は訂正しなかったのだろう。
自分がもし向の立場なら、鼻高々になってこう言ったはずだ。
おまえに唯一、投票したのは俺なんだよ。
そして、感謝の言葉を期待する。
それくらいの見返り、「普通」は求めて当然だ。
意識的にしろ、無意識を装うにしろ、そういうものだ。
『え?あぁ、なんだ。焦凍話しちゃったんだ』
そうだと、思っていた。
「なぜ俺に訂正してくれなかったんだ?俺は勘違いしたまま、君の功績に気づかなかったかもしれない」
『功績?ははは、固い言葉を使うなぁ。そんな大それたものじゃないし。私が天哉を委員長にしたわけでもないしね』
感謝の言葉を述べる飯田に、彼女は『いいよ、そんなこと』と笑って返事を返した。
『私は何もしてないよ。天哉が昼休みの時間に何をしたのかは、私は見てないからわからないけど…でも、みんなが見ていてくれて良かったね』
改めておめでとう、天哉。
そう言って、陰り一つなく笑ってみせる彼女の微笑みを見て、僕はどうしても、問いかけたくなった。
「……君は?」
『え?』
「君は、それで良かったのか」
誰にも知られず。
誰にも感謝されず。
自分の功績が、他人の功績だとすり替えられていたとしても。