第22章 身を立て名を上げ、やよ励めよ
機会があれば、轟くんにも声をかけてみなくては。
僕はなんだか、クラスから「浮いている」様に思える2人のクラスメートのことを考えながら、ふと思い出した。
(…そういえば、田中くんと話すようになったのもそんな理由だった)
それは、中学1年の夏のこと。
「飯田、頼みがあるんだ」
「はい先生、なんでしょうか!?」
学級委員長として先生の雑務を手伝う傍、度々授業以外でも言葉を交わしていた担任の先生が、僕を職員室へと呼んだ。
のちに僕の受験勉強をバックアップしてくれて、僕が恩師と敬う仲となる、中学時代の最初で最後の担任だ。
「えーっと…そうだ、田中のことなんだが」
先生は、入学してまだ3ヶ月も経たないクラスメート数人の名前が、覚えられずにいた。
咄嗟に、出席簿の中から視線で彼の名前を探して、苦笑を浮かべてごまかしたあと、僕に頼みごとをしてきた。
「あいつ、クラスで浮いてる感じになっちゃってるだろ。飯田は、誰とでも分け隔てなく話せる優しい生徒だ。たまにでいいから、あいつに話しかけてやってみてくれないか?」
「…田中くんとですか?頼みというのは、僕が田中くんに話しかけるだけでいいのでしょうか!」
「できれば友達になってやってほしいけど、なんというか…複雑でな」
「…わかりました。では学級委員長として、クラスの輪を保てる様、気を配ります!」
「さすが学級委員長、頼んだぞ!」
担任から向けられる、僕への特別な信頼感。
僕はその時。
担任からの視線に酔いしれて、とても良い気分に浸ったのを今でも覚えている。
田中くんは、僕と学年1位2位を争うくらいの学力を持っていて、人当たりも良い人だった。
けれど、その風貌はなんだか。
とても、そんな優秀で気さくな人物とは思えないほど、身だしなみがだらしなく、髪も伸びきってボサボサで。
買ったばかりの制服すらサイズを合わせなかったのか、いつも裾を引きずっていた。
「田中くん!」
「…ん?どした、飯田」
「一緒に学食へ行こう!」
「あぁ、俺パンだけ派」
「ムッ!では僕も今日は教室で食べよう!」
話しかけるうちに、僕は彼の明るい人柄に好感を覚え
「あはは、なんだよ、どした?急に」
担任に言われるまで、彼に近寄りがたいと自分自身も感じていたことを、ひどく恥ずかしく思った。