第21章 仰げば尊し、我が師の恩
<<おーっと向!!可愛い割に容赦ねー!!学生諸君、綺麗な薔薇には棘がある、妖しい女は十分気をつけて口説くこった!!>>
<<オイ>>
バトルと関係ないだろ、と言う相澤の声が会場に響き、次いで「ゴッ!」という恐らくは、調子に乗ったマイクがマイクにぶつけられた音がした。
「おーすっげぇな向、飯田一方的にボコってんじゃん」
「容赦ねぇ…あの女、優しいふりしてやっぱり魔性の女ってやつだぜ…」
「飯田くん、くじ運悪かったよね…よりによって女子、の中でも一番特別視してる向さん…!」
観戦席に座る1-Aの生徒たちが、口々にコメントする。
つーかさ、とそわそわしていた耳郎が会場のアナウンスを聞き、隣にいるっぽい葉隠の顔っぽい部分を見つめながら、囁いた。
「相澤先生と、深晴ってそういう感じ?」
「えっ、耳郎ちゃんそういう感じって?」
「耳郎ちゃん、私も見たわ」
「梅雨ちゃん見た!?あれさ、やっぱそういうこと!?」
「なに!?えっ、なぁに!?」
ヒソヒソと話し続ける蛙吹と、耳郎の内緒話に、葉隠がこっそりと耳を近づける。
「えぇーーーっ昼休み、相澤先生が向ちゃんを、連れ去ってったの!?」
「声がおっきい!葉隠聞いてたんだ!?」
「私はね、暗い廊下で佇む二人を見たよ!」
「ケロ、それはいつのこと?」
「んーっとね、それは昼休み後半!」
「えっ、じゃあ葉隠はなにを見たの?」
「リカバリーガールの出張保健所まで、相澤先生が向ちゃんを運んできてたよ」
「「「…………」」」
急に口を閉じた耳郎と蛙吹が目を見合わせ、耳郎が、はぁ、とつまらなさそうにため息をついた。
「なんだ、ただの良い先生かよ」
「耳郎ちゃん、ゴシップ好きそうよね」
「わってるって!期待してる仲じゃないんでしょ」
「すっごい仲よさそうだった!」
「マジで!?」
「分かりやすいほど食いついてるわね」
セメントスが個性で作り上げたバトル会場から完全に目をそらし、女子たちは「怪しい二人」の話題に花を咲かせる。
<<イレイザー、ここで、解説をどうぞ!>>
<<………………………>>
<<あれっ、無言?おい照れんなって!!>>
「ゴッ!」という衝突音が再び会場に響き、耳郎たちは揃って恥ずかしそうな声をあげた。