第20章 おまえも一緒
「自分の個性が嫌いなのか?…ならわざわざ俺に遊びでだって個性を使ったりするはずねぇよな。それとも、俺と同じ目的があるのか?」
おまえも、そうなのか。
轟は足を止めて、なんの感情も表情に乗せることのないまま、向を見つめた。
そんな話題を振られた向はジャージの袖口で額を拭いながら、軽い笑い声をあげる。
『ははは、そんなんじゃないよ。ただ負担が大きいから、15分も保つかどうか確証がなくて』
「俺は、今日だけの話じゃないって言ったろ。それ以前にもおまえに違和感を感じてた。その理由はなんだ」
『本戦で私に勝てたら教えてあげるよ』
「…またそれか。結局あとで教えることになるのに、引き伸ばしてなんになる?」
負ける気なんか、毛頭ない。
そんな言葉を返してくる轟に、向は楽しそうな笑みを向ける。
『結局あとで知るのなら、今知らなくたって同じこと』
そんな掴み所のない返事を返し、向が深くため息をつきながら、足を止めた。
「向」
『…!』
並んで歩いていた轟の片手が、急に、向の腰に回された。
目を丸くする向の右腕を、轟が自身の肩に回し、少しだけ向を背負うような形で、じっと彼が見つめ返してくる。
「…リカバリーガールの所まで、肩貸す。左足、俺のせいだろ」
『えっ、いやいや大丈夫だよ』
「…思い返せば、おまえと初めて話したのも、おまえが怪我をした時だった」
『……?』
「久しぶりに話した今も、おまえが怪我してる」
おまえ、危なっかしい奴だよな。
轟はそう言って、以前なら笑いかけてくれていたはずの表情を浮かべることなく、無表情で歩き始める。
『……焦凍』
「先生の弟子なのか何なのか知らねぇが、おまえにも勝つ。本戦、勝ち上がってこい。緑谷も、おまえも、俺が叩き潰す」
がんばれよ、と。
初めて彼と話した日。
彼からかけてもらった激励の言葉が、今は全く違う意味を持って、向に投げかけられた。
『……焦凍、私は……』
そう言いかけた直後。
誰かに腕を引っ張られ、向の身体が、ぐいっと轟とは反対方向に引き寄せられた。