第19章 布石に定石
そして、残るはひと枠。
「デクくん」
『出久』
落ち込んで俯いている緑谷に、麗日と向が声をかけた。
「あの…ごめん…本当に…」
「お前の初撃から轟は明らかな動揺を見せた。1000万を取るのが本意だったろうが…そう上手くはいかないな」
それでも、一本。
「警戒の薄くなっていた頭の方を頂いておいた。緑谷、おまえが追い込み生み出した轟の隙だ」
常闇がダークシャドウを親指で指差し、指を差されたダークシャドウはそれに応えるように、嘴で挟んだままの615点のハチマキを緑谷に見せた。
<<4位、緑谷チーム!!以上、4組が最終種目へ…進出だああーーー!!!>>
シャウトするマイクの結果発表を聞き、緑谷が膝から崩れ落ちて、地面にめり込んだ。
噴き上がった大量の涙を見て麗日が笑い、向は額の脂汗を拭いながら、口角を上げ、深く息を吐いた。
<<一時間程昼休憩挟んでから午後の部だぜ!!じゃあな!!!オイイレイザーヘッド、飯行こうぜ…!>>
<<寝る>>
<<ヒュー!>>
ブツ、と会場に響いていたマイクの解説が途切れ、自由時間が割り当てられた生徒たちは、口々に戦いを振り返りながら食堂へと向かっていく。
こめかみから伝う汗を拭いながら、向がゆっくりと足を踏み出した時。
誰かが背後から向の肩を叩いて、向、と声をかけてきた。
『…焦凍?』
USJ後の臨時休校が明けてからというもの、轟と向は、全くと言っていいほど言葉を交わしていない。
それはひとえに、以前までフラッと話しかけに来てくれていた轟が、一切近づいてこなくなったからだ。
今日も全く話をしていないし、2週間以上も意図的に「避けられていた」自覚があった向は、不思議そうな顔をした。
「緑谷、お前も。話がある」
「えっ?」
向と同じように、困惑した表情を浮かべる緑谷と顔を見合わせる。
それ以上は深く語らず、ついてこい、と言わんばかりに歩き始める轟。
「あっ、待って!」
人ごみの中で轟を見失わないように、緑谷が駆け足で彼を追いかける。
それを見た向が足を踏み出した、直後。
左足首の激痛が身体を駆け抜ける。
向は痛みに顔を歪ませながら、また、歩き始めた。