第20章 おまえも一緒

こんなこと、何度も話すような話じゃねぇから一度だけ話す。






人気のない生徒控え室へと向かう途中の出入り口。
轟は壁にもたれかかったまま、緑谷と、向を睨みつけ、冷たい威圧感を放ち続ける。


「なァ、オールマイトの隠し子か何かか？」
「……えっ？」


そう問いかけて来た轟の視線は、緑谷のみに向けられている。
緑谷の隣に並ぶ向は『ええっ』とさも驚いたリアクションをとったが、汗の引かない彼女の表情に、衝撃を受けたかのような気配は少しも見受けられない。


「違うよそれは…！って言ってももし本当にそれ…隠し子だったら違うって言うに決まってるから納得しないと思うけどとにかくそんなんじゃなくて……！」


しどろもどろになりながら返事を返す緑谷を、冷静に眺める轟。
観察力に優れた彼は、その緑谷の言葉尻を捉え、低い声色で指摘した。


「「そんなんじゃなくて」って言い方は、少なくとも何かしら言えない繋がりがあるってことだな。…俺の親父はエンデヴァー。知ってるだろ」
「『……！』」


万年No.2のヒーローだ。
自身の父親について、そんな他人事のような侮辱を孕んだ言葉を使った轟に、向が違和感を感じる。


「おまえがNo.1ヒーローの何かを持ってるなら俺は……尚更勝たなきゃいけねぇ」


次いで轟の口から語られたのは、人類に超常が起きた後、第二〜第三世代間で話題となった社会問題。





「個性婚、知ってるよな」





倫理観の欠落した前時代的発想。
自身の個性をより強化して子に継がせるためだけに、配偶者を選び、結婚を強いる。
轟の父、エンデヴァーは肥大しすぎた上昇志向の末にその策を講じ、生ける伝説オールマイトを超えさせるためだけの数人の子を儲けた。
そして、彼の欲求を満たすためだけの存在。
「轟焦凍」が生まれた。


「うっとうしい…！そんな屑の道具にはならねえ」


記憶の中の母は、いつも泣いている。
彼はそう語り、自身の左手で、顔面の左側を憎々しげに覆った。


「「おまえの左側が醜い」と、母は俺に煮え湯を浴びせた」


そして、轟は燃え上がるような憎しみをその目に宿らせて、緑谷と向を見つめた。




「クソ親父の個性なんざなくたって…いや…使わず「一番になる」ことで、奴を完全否定する」