第19章 布石に定石
『…っこの…!』
苦々しげに睨みつけてくる向と、轟の視線が交差する。
「残り6分弱、後は引かねえ」
八百万が創造した伝導を使い、轟が手のひらからの冷気を地面へと伸ばし、周囲を一瞬で凍らせる。
向の個性でその射程から飛び出し、地面を滑るように移動した緑谷チームだったが、向の計算が狂ったのか、先ほどまでの安定性はなく、上に乗る緑谷がぐらつく程の急停止をして、迫り来る轟チームと距離をとった。
<<何だ何した!?群がる騎馬を轟一蹴!!>>
白熱する騎馬戦で額に汗を滲ませたマイクの隣で、相澤が呟いた。
「上鳴の放電で確実に動きを止めてから凍らせた…さすがというか…障害物競走で結構な数に避けられたのを省みてるな」
「ナイス解説!!」
荒く息を吐きながら、左足を軽く浮かせた状態で騎馬を組み続ける向を見下ろし、相澤は舌打ちをした。
(…よそ見しすぎだって教えてやっただろうが)
『ごめ…っ少し遅れた』
「向さん大丈夫!?」
「強すぎるよ!逃げ切れへん!」
「牽制する!」
若干の体の痺れが残っている向を気遣うように、常闇がダークシャドウを使って轟チームに攻撃をしかける。
轟の掛け声で八百万が盾を創造し、ダークシャドウの攻撃が塞がれた。
「緑谷、おまえ向の個性の使い方、それでいいのか」
「!?」
突如として話題を振ってきた轟に、緑谷は答えることなく、常に距離を置き、轟チームの左側へと位置取り続ける。
「俺なら、もっと上手く使う」
「…そういうのは、1000万を取ってから言ってよ!」
「…それもそうだな」
轟は周囲のグラウンドを凍らせ、氷の壁に囲まれた一対一のゾーンをグラウンド上に出現させる。
そして、右半身に重心を置き、苦悶の表情を浮かべている向を見下ろした。
「なら、取ってからもう一度言う」
お前に向は勿体ねぇ。
轟はそう言い放ち、それを聞いた緑谷は、さらに闘志をたぎらせた。