第18章 ずっとかさぶたのまま
(ダメだ、絶対…!)
かっちゃんはきっと、向さんと組みたいに決まってる。
ベクトル変換なんて攻防に優れた個性、騎馬に絶対加えたい力だ。
それにこれだけ時間を過ごして、切島くんと上鳴くんの名前すら覚えてないかっちゃんが、向さんの名前は覚えるほど気に入ってるんだ。
そして、障害物競走のスタート直前。
ーーー見てろ
かっちゃんが向さんに伝えた、あの言葉の意味は、きっと。
「…っ待って、向さん。勝つ気持ちなら、僕にだってあるよ!それに、実際…ラッキーな部分は多いけど、障害物競走でかっちゃんよりも僕の方が上に行った」
『ん?そうだね。でも』
「有名事務所に目を止めて欲しいなら、200Pより1000万Pの方がマスメディアの注目を浴びる。僕は一度Pを取られて身軽になるつもりはないから、逃げ続ければその分、注目を集め続けられる!」
『でもさ』
ごめん、出久。
と、彼女は本当に困った顔をした。
その表情を見て、僕はまくし立てるように喋り続けた自分の口を、閉じるしかなかった。
『私は、勝ちたいから』
勝ちたい。
勝つためには、僕よりもかっちゃんと組む方が可能性が高い。
彼女は言いたくなさそうに、それでも譲れない部分なんだろう、僕に申し訳なさそうな視線を向けた。
「深晴!」
『…呼んだ?勝己なに?』
遠くからかっちゃんが向さんを呼んだ。
僕はそれ以上何も言うことができなくて、途方にくれる。
彼女は僕に視線を戻し、『ごめん出久』と謝った後、ふと周りの生徒たちに目をやった。
『…………。』
「…どうかした、向さん?」
立ち尽くしたまま、笑みを消して周りを眺めていた彼女はポツリと呟く様に僕に問いかけてきた。
『なんで出久は1人なの?』
「え?…あ、まだ誰も声かけてないし、かけられてもないんだ」
『1000万Pってだけで?』
「あぁ、それだけじゃないと思うよ。僕の個性が不明確で、ちゃんと使えるかどうかも怪しいし…はは、あんなこと言っといて全然目立ってなんかないよね」
「みんな、僕が見えてないみたいだ」
僕が自虐を含んだ言葉を、笑いながら言った時。
彼女の周りの空気が一瞬ぼやけて、ガラリと変わった。
「……向さん?」