第17章 良いとこ見せたいお年頃
『…これは…』
コールを聞いて、即座に飛び出した爆豪にものの数秒で置き去りにされた向は、マラソンのようなスピードで走りながら、肉団子が出来上がっているスタートゲートへと向かっていく。
(…第一種目ってことは、この先いくつか種目があるんだよなぁ。そうなると目眩起こしてるわけにはいかないし…)
算段を色々と頭で計算をしているうち、スタートゲートへと差し掛かってしまった。
(…ここでは、使わない)
結論を出し、大人しく人の波に揉まれること数秒。
『………おい、こんなところでセクハラか』
やたらと向の足にかかってきていた圧力が、人の手によるものだと確信し、その手を掴んだ。
そのままぐいっと引き寄せると、人混みの膝丈の辺りから、真っ青な顔をした峰田が現れた。
「あっ」
『「あ」じゃねぇよ、「あ」じゃ!!』
向は峰田をスタートゲートの壁に個性を使って叩きつける。
そして『暑いもう無理』とさっきの考えを取り消し、宙へと逃れ、一気にスタートゲートを飛び抜けた。
「…向か」
『!?』
先頭集団から抜き出たところを走っていた轟が、振り返って呟いたのが聞こえた。
向が彼の背後に着地しようとした寸前、轟は寒々しい空気を身に纏い、駆け抜けた地面を一瞬で凍らせていく。
『あぶな』
焦って轟と距離を取る。
着地予定地点を急に変えて降り立った際、足首が嫌な音を立てるのを聞いた。
『……っ』
向が立ち止まった瞬間。
すぐ横を1-Aの生徒数人が駆け抜けて行く。
「甘いですわ、轟さん!」
「そう上手く行かせねえよ半分野郎!!」
半分、野郎。
脇を飛び抜けていった爆豪が、そんな言葉で轟を呼んだのを、向はポカーンと見送った。
(……あだ名?)
足首を試しに動かして、走れそうだというのを確認した後、向は呟いた。
『……いいな。私もあだ名欲しい』