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風向きが変わったら【ヒロアカ】

第16章 朝焼けに佇む




『ありがと』


足を止めた緑谷が振り返った時。
彼女がちょうど横を通り過ぎて、緑谷に笑みを向けた。


「………っ…」


その笑みが。
仕草が。
揺れる長い髪が。
眩しく光って、緑谷の目に焼き付いた。


「緑谷さん、ご一緒に教室へは行かないのですか?」
「…あ、行く!行きます!」


手招きする向を見て、緑谷は息苦しい胸を押さえながら、駆け足で歩き始める。


(……ちゃんと、聞こう)


21人いる生徒のうちの、ただ1人。
生徒と教師。
それだけの関係しか持たないはずの2人のことを、もっと知りたい。
知らなきゃいけない。
彼女は答えてくれるかもしれないし、答えてくれないかもしれないけど。


(……このままじゃダメだ)


彼女と言葉を尽くして、いろんな話をしたい。
知りたいから。
1人になる度いつもぼんやりと空を眺めている理由も。
戦いへ赴く担任を、身を引き裂かれるような声で引き止めた理由も。
自分のことを深く語らない理由も。
それなのに、他人の気持ちはすぐに見透かして、知らず知らずのうちに助けてくれる、そんな君のことを。


「………向さん、あの」


さっ!!と叫んだ緑谷の背を、突如蹴り飛ばしたのは。
いつもいつも邪魔をしてくる、苦手な幼馴染だ。


「おいデク、俺の前歩いてんじゃねぇよ!!」
「…かっちゃんが出てくるのが遅いのが悪いんじゃないか」
「あァ!?」
「どれだけ、何を邪魔したって構わない。でも…君には、負けないから」


キッといつもとは違う様子で睨み返してくる緑谷に、爆豪はイラっとした表情を隠さない。


「ざけんな、てめェが相手になるかよ」


緑谷の言葉の意味がわかったのか、わからなかったのか。
その真意は掴めない。
しかし教室の手前で、ものすごい剣幕で睨み合う幼馴染の2人を見て、扉の所から様子を伺っていた麗日と蛙吹が呟いた。


「男の因縁ってやつです…!」
「因縁?そうなの?」
「因縁なのです…!」


それから数分、クラスメート達に遠巻きに見られていた爆豪と緑谷。
結局、睨み合いは貶し合いへと発展。
帰りのHRのために教室へ現れた相澤に、2人仲良く縛り上げられたのを、そもそもの原因となった向は、喧嘩するほど仲がいいんだなぁ、なんて。
場違いなコメントを呟いたのを、上鳴に訂正された。

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