第16章 朝焼けに佇む
消太にぃ
(…たしかに、そう言ってたよな)
USJでのあの騒動の時。
足下に倒れた相澤を見て、たしかに彼女はそう口走った。
なんだか機会がなくて、向と二人きりで話すことはなかったが、一度「そういうものだ」と思って相澤と向を見てしまうと、確かに他の生徒達とは違う距離感が、二人の間に存在している気がしてならない。
(いやでも相澤先生に限って…そんなこと、ないよな?向さんも彼氏いないってこの前切島くんが上鳴くんに話してたの聞いちゃったし…)
更衣室から出ると、ちょうど向と八百万が二人で並んで、すぐ先を歩いていくタイミングだった。
「深晴さんは、体育祭に向けて何かなさっていますの?」
『んー、出来る限り座標測定ゴーグル使わずに個性使ってる。ランニングとか』
「体育祭と銘打っている以上、やはり体力が必要とされる競技ももちろんあるでしょうしね…」
『がんばろっかー』
「…深晴さん。先ほど気になるお話を聞いてしまったのですが」
10点中2点とはこれ如何に?
事の真偽を問いかけてくる八百万に、向は首を傾げた。
『え、なんでってそのままだよ』
「おかしいですわ、だって深晴さんはプラズマを演算で発生させてしまうような人なんでしょう?」
『プラズマじゃなかったかもよ?』
「えっ。…なるほど、そちらがデマという可能性も…」
『デマじゃないけどね』
「えっ。…ではやはり、プラズマを?なら、なぜあなたはそれほど残念な結果に甘んじているんですか!」
真剣に受けたテストの点数を「残念」と言い切られた向は、背を見るだけでも少し落ち込んだように見えた。
同じ教室へ戻らなくてはいけないので、緑谷はなんだか申し訳ない気持ちになりながら、会話に花を咲かせる女生徒達の後ろを、出来る限り気配を消して歩き続ける。
中学の経験上。
聞こえてきてしまっただけの内輪話でも、自分の不注意から聞かれてしまっていたことに気づくと、女子は緑谷が盗み聞きした、という暴論に結びつけてしまうということを知っているからだ。