第16章 朝焼けに佇む
「緑谷」
4限目が始まる前に感じたもやもやは、1日の中で一番の楽しみであるヒーロー基礎学の時間になっても、胸から消え去ってはくれなかった。
対人戦闘訓練の組合途中。
蛙吹と親しげに話しながら、授業内容もきちんとこなす向に視線を奪われたままの緑谷。
そんな彼に、訓練相手だった轟が声をかける。
「……緑谷、集中しろよ」
「あっ、ごめん!ほんと、ごめん!」
「……向が気になるのか」
なんでだよ。
と問いかけてくる轟に、緑谷は少し面食らった顔をした。
そして、申し訳なさそうに頭に手を置きながら、返答してきた。
「…僕にもわかんないんだ」
「…へぇ」
「轟くんは、もうあっち向いてホイするのやめたの?最近はあまり一緒にいるところ見かけないけど」
「…元々あいつの個性が何か教えてもらうのを条件にやってたんだ。個性がわかった今、必要ねぇだろ」
「あ、そうなの?…そっか、てっきり、轟くんはそういうのなしに楽しんでるんだと思ってた」
「……気晴らしにちょうど良かっただけだ」
「他にも色んなことして遊んでるみたいだったし。あ、そういえばこの前、僕と向さんでドラマチックしりとりやってみたんだ。けど轟くんの時とは違って、なんだか恥ずかしい展開になっちゃって」
「俺の番だよな。受け身、取れよ」
(…あれ?なんか少し)
気が、立っているのでは。
緑谷の言葉を遮った轟は、先ほどまでとは比べものにならないほどのスピードで組手を完成させ、緑谷を背負い投げた。
ドォン!!という凄まじい音を立てて叩きつけられた緑谷を見て、クラス中の生徒達が目を丸くした。
そのうちの一人、向と轟の目が合って、一瞬。
「………。」
轟は少し息を吐いた後、パッと視線を緑谷に逸らした。
「悪ぃ、受け身も何もなかったな」
「この場合の受け身って……出来ることと言えば覚悟を決めるくらい…?」
「そうだな」
「おい轟、まだ投げんなっつったろ。先走んな」
「…すいません」
轟は忠告をしてきた相澤を眺め、そして向に視線をやった。
相澤が轟を見つめ、包帯の隙間から、少しだけ目を細めたのを、地面に寝転がった状態の緑谷はじっと見上げていた。