第15章 ただいま
「…深晴」
『ありがと』
華のように笑う彼女の表情に、ほんのひと握り。
「影」が含まれていることに気づいた。
けれど、きっとそれを聞くにはまだ、「友達かどうか」なんて立ち位置にいる自分には、おこがましいことなんだろう。
「…深晴、友達ってさ、そうそう言葉にするもんじゃなくね?」
『…そうなの?』
「そうなの、そういうもんなの!あんまそういうこと聞きまわってると、不思議ちゃんって呼ばれるぞ」
『不思議ちゃんかー、そういうのもいいかも』
「お前の感性はマジで謎だわ…」
「あ、おーい向!上鳴!」
教室に入ると。
二人を探していたらしい切島と爆豪が、俺達に手を振ってきた。
『あだ名って、憧れる』
切島達の方へ歩き出す直前。
深晴が、そんなことを口にした。
「……え?」
「さっき爆豪とアイス食べたんだけどさ!すごくね!?二人ともアタリ棒引いたんだよ!」
『えっ、すごい』
「それで、俺らもう腹一杯だからお前らにやろうと思ってさ」
何だか気まずそうにしている爆豪が、深晴にゴリゴリ君アイスを差し出した。
深晴はそれを見つめ、首を傾げた。
「向、爆豪のやつスネてただけみたいだぜ」
『…スネる?』
「てめェクソ髪黙ってろ!!」
「USJで爆豪、お前のこと心配してたからさー。なのにまさか敵とやり合うほど強いなんて、男としてはちょっと認めたくねーっつーか、な?」
「心配なんかするかよ、勝手に話盛ってんじゃねぇ!!」
ブッ殺す!と照れ隠しでクラスメート一人殺しかねない殺気を向けてくる爆豪を意に介さず、切島は闊達に笑う。
俺は切島から手渡されたアイスを眺めながら、何だかホッとしたような表情をしている深晴を見つめた。
(…あだ名じゃ、ねぇんだけどな)
あぁ、そうか。
きっと。
(……知らないんだ)
不思議ちゃんなんてよくある蔑称が、友達がつけるあだ名なんて優しいものとは、全くの別物だってことを。
(……やばい)
この感情はなんだろう。
悲しくもないのに、泣きたくなるような。
今すぐ叫び出したいような。
『なんで私にくれるの?』
と問いかけた深晴に、切島は答えた。
「だって、いつも俺ら一緒にいるじゃん」