第15章 ただいま
HRの鐘が鳴り、生徒達が前方の扉に注目する。
プロ根性なのか何なのか、ミイラ男のような状態でふらつきながら、相澤が教室に現れた。
「先生!無事だったのですね!!」
「俺の安否はどうでも良い。何よりまだ戦いは終わってねぇ」
労いの言葉をかける飯田に冷たく返した相澤は、1-Aに迫る新たな「戦い」についての存在を知らせた。
「戦い…!?」
「まさか…」
「また敵がーー!?」
勘ぐり、ざわつく教室。
その生徒達に対し、相澤が言い放った。
「ーーー雄英体育祭が迫ってる!!」
「クソ学校っぽいの来たあああ!!」
『…みんな、ツッコミ上手だなぁ…』
雄英体育祭。
かつてのオリンピックに変わる、日本のビッグイベントの一つ。
スカウト目的のプロヒーローも当然観戦しており、見込みがあると判断された生徒は将来有望、有名な事務所入りの未来が拓けるとされている。
敵の襲撃を受けた後なのに開催するのか、という疑問を口にした生徒に、相澤は学校側の見解を述べた。
「逆に開催することで雄英の危機管理体制が盤石だと示す…って考えらしい。警備は例年の5倍に強化するそうだ。何より雄英の体育祭は、最大のチャンス」
年に一回。
計三回だけのチャンス。
ヒーロー志すなら、絶対に外せないイベント。
相澤のコメントを聞いて、クラスメート達はグッと身の引き締まる思いがした。
『…有名なヒーロー事務所から…スカウト…』
そんな中。
ボソッと、珍しく向が独り言を呟いた。
「深晴、お前どっか入りたい事務所あるのか?」
『…んー……私は…』
普通の声の音量で話しかけてきた上鳴の問いかけに応えようと、俯いていた向が顔を上げる。
そして、自分がクラス中の視線を浴びていることに気づき、ハッとした。
中には純粋な好奇心の目を向けて来ている生徒もいるが、それだけではない。
値踏みをするような、向への警戒心を含んだ視線を向けてくる生徒も、確実にいる。
『……なに?』
「なにって、聞いてなかったのかよ!どっか入りたい事務所あるのかって」
『あ、えっと私は、特に…』
「以上、HR終わり。授業の準備しろ」
相澤がピシャリと締めくくり、HRを終了させる。
息苦しさを感じていた向は、ようやく息を吐いた。