第15章 ただいま
臨時休校の開けた初日。
向が教室へと足を踏み入れた瞬間、待ち構えていたクラスメート達がどっと押し寄せて来た。
「向、お前あの脳みそヴィランボコボコにしたって本当かよ!?」
「嘘なわけねぇだろ、オイラはすぐ側で見てたんだって!」
「意外だよなぁ、今までのヒーロー基礎学の結果じゃパッとしねぇのに…」
口々に話しかけてくるクラスメートたちを眺めて、向は少し首を傾げた後、ははは、そんな大したことしてないよ、なんて謙遜をした。
「あっ、向さん!」
他のメンバーと同じく、向を待っていたらしい緑谷が駆け寄って来た。
「…あの…僕、向さんにお礼が言いたくて…」
『…なんの?』
「えっ」
ぽけっとした顔をする緑谷に、向はまた少し首を傾げ、にこりと笑って手をひらひらと振った。
『予鈴、鳴るよ?』
「…あっ、うん!ま、また…」
向はそれとなく集団から抜け出し、自身の座席に腰掛けた。
『あ、踏陰おはよー』
「…あぁ、お早う」
「向」
『おはよ、焦凍』
向は何人かのクラスメートに挨拶をした後、彼女の座席へ近づいてきてくれたらしい轟を見上げた。
轟は、ヴィラン襲撃時の出来事を報告し合っているクラスメート達を眺め、視線を向に落とした後、問いかけてきた。
「……お前、どこのゾーンに飛ばされたんだ?」
『…ん?…えっとね、雨がすごいところ』
「…お前の個性、ベクトル操作だろ。薄々そうかとは思ってたが…この前、USJで警察に引き渡されたびしょ濡れの敵の中に、全身複雑骨折の奴らがいた。あいつら、やったのお前だろ。そんな強ぇ個性持ちなのに、今まで黙ってたのは、周りの奴らにライバル視されない為か」
『ライバル視?ははは、なにそれ』
「……向」
「悪ぃ、お前をナメてた」
そう言った轟の目つきは、今まで、彼が向を見る時のものとは全く違っていた。
穏やかで、少し好奇心を孕んだ彼のいつもの眼差しは、どこにもない。
『…焦凍?』
その時、予鈴が鳴った。
轟はそれ以上何も言わず、向の横を通り過ぎて、自身の座席に戻っていった。
『……。』