第14章 大好きなヒーロー
そう考えてしまったら。
どうにもこうにも、寝ていられなくなって。
「わわっ、何身体起こしてんだ寝てろって!心配かけた俺に対しての土下座なら明日でも明後日でも受け付けてやるから!!」
「……土下座…?なにふざけ倒してんだおまえの腕も俺とお揃いにしてやろうか」
「ごめんなさい笑えない冗談言ってごめんなさい…ってそれより無理に身体起こすなって!!」
何度か身体に力を入れて、トライしてみるものの、繰り返されるのは激痛ばかりで一向に上体すら起こせない。
いつか、彼女が。
ありきたりなドラマを見ながら、冗談混じりに言っていた言葉を思い出す。
ーーー私たちってさ、秘密の関係ってやつだよね
2人だけの秘密の関係。
そんな言葉に、幼い彼女は少しの期待と、優越感を滲ませていた。
俺はその言葉に、特に否定も肯定もせず。
ただ、だったら何だよ、なんて言葉を返した。
「小汚いおっさんとそんな関係で悪かったな」
『全然?むしろ…』
「……むしろ?」
『いやいや、何でもない』
「なんでもあるだろ」
『いやいやいやいや』
「…バーカ、何照れてる」
『照れてないし!』
「…俺たちはただの遠縁の親戚。お前がここに居たいって騒ぐから置いてやってる。それだけだ」
『…それだけ?』
「それだけだよ」
『他には何もないの?』
「他に何が要るんだよ」
(……。)
いつかの彼女との会話が蘇る。
他に何が要るんだよ、と。
返した言葉の裏の意味を、彼女は気づくことのないまま。
『……なんだ、そっかぁ』
なんて、残念そうに呟いた。
俺はそれ以上深く語ることが出来なくて、語っていいものなのか、判断がつかなくて。
欲しいものがあるのなら、言え。
そう言ってやったなら。
彼女は俺に何を求めたんだろうと、思わずにはいられない。
「なぁマイク」
「ん?」
「……お前には、話すから。だから今日は何も言わず、俺の家に行って、そこにいる奴と飯を食ってくれ」
「……は!?そこにいるっておま…っ!」
「そいつには、何も聞くな。俺が全部、洗いざらい話すから」
同期に、何十年ぶりかの頼みごとをして。
微かな空虚感に、身を委ねつつ。
ゆっくりと、目を閉じた。
(……あぁ、もうこれで)
秘密の関係じゃなくなるな、なんて。
確かな想いを、胸に秘めながら。