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【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】

第5章 菊合





その日、赤葦は正午を過ぎても木兎邸に戻ってこなかった。

朝食の席に赤葦の姿が無いことに気づいた八重がその理由を尋ねると、光太郎は山盛りの白飯を頬張りながら“知らない”と答えた。

「あいつも“付き合い”ってのがあるんじゃね?」

しかしその言葉はむしろ、八重の違和感を強めるだけだった。

この家に来てからまだ一カ月ほどだが、赤葦が木兎家を長時間不在にすることはほとんど無い。
家令としての仕事で屋敷を空けることはあったが、学院に行く光太郎を見送ることなく朝から出掛けるというのは決してなかった。

それなのに従者を一人も連れず、わざわざ辻馬車を使ってまで向かった場所とはいったいどこだ。



「京香さん。赤葦が光太郎さんに行先を告げずに出かけるのはよくあることなの?」

昼食を終えて部屋に戻る途中、八重は後ろを歩く京香に尋ねてみた。

「家政が忙しいのは分かるけれど、闇路を連れずに外出しているのは気になるわ」

早朝から出掛けなければならない用事とはいったい何だろう。
いや、むしろ昨晩からいなかったのではないか?

八重の質問を受け、京香は少し間を置いてから言いずらそうに口を開いた。

「木兎家が懇意にしている陸軍中将殿の御屋敷が横浜にあり・・・京治はよくそちらに招待されています」

「陸軍?」

「はい・・・旦那様は将来、貴族院議員よりも軍人になる方にご興味がおありで・・・」

伯爵が軍人になる?
そんなこと許されるわけがない。
だが、剣道に熱を入れている光太郎なら有り得ぬ話でもないだろう。

「万が一、旦那様が軍人の道を選ばれた時に備えて、京治は今から陸軍と強い繋がりを作っておきたいと考えており・・・おそらく今日も中将殿の御屋敷に行っているのではないかと・・・」

「・・・そう」

京香の説明は理解できるものの、腑には落ちなかった。
やはりだからといって、普通の客人として訪問する時間ではない。
辻馬車を使っているということは、こちらの身分を知られたくないということだろう。

八重がさらに口を開きかけた瞬間、ちょうど通りがかったエントランスホールの玄関扉が開いた。








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