【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第5章 菊合
────私は・・・やはり、牛島夫人の花会を欠席したいと思います。
牛島家からの招待を受けるか、受けないか。
光太郎がもう一度訊ねた時、八重はそう答えた。
「法要のため欠席するとしておりますが、それで良いでしょうか?」
「あー、なんでもいいよ。赤葦に任せる」
「おかげで、木兎家の遠縁の方の死を利用しなければなりませんが」
爵位を持つ者の近親者の法要であれば、牛島家の耳にも入っていなければおかしい。
悩んだあげく、その日は少し前に死んだ先々代の従兄の法要が執り行われる・・・ということにしておいた。
「きっと俺は木兎家ご先祖の霊に祟られますね」
「こ、怖いこと言うなよ、あかーし・・・」
赤葦は盛大に溜息を吐いた。
今回はいいにしても、今後はどうすればいいのか。
牛島夫人の様子だとこれからも誘いがくるだろう。
「・・・光太郎さん」
赤葦がそう呼ぶと、手紙を覗き込んでいた光太郎が顔を上げた。
「本当にこれで良かったのですか?」
一度決めたことを後からウジウジと悩むような光太郎じゃないことぐらい分かっている。
しかし、この先もずっと八重の望まぬことを避けていくわけにはいかない。
いずれ彼女には理解してもらわなければいけないのだから、それが早いに越したことはないだろう。
すると光太郎は赤葦のすぐ横に立ち、机に左肘をつく恰好で屈みながら、右腕は赤葦の肩に回した。
「俺はなるべく八重を大事にしてやりたい」
そう言って、曖昧に微笑む。
「大事にできるうちは・・・な」
いずれ必ず八重は涙を流す。
恐らくその時は木兎家に引き取られたことを呪うだろう。
「それにお姫様には笑っていてもらいたいじゃん」
先ほどと違い、はっきりと寂寥感を漂わせる光太郎の笑顔。
「・・・そうですね」
赤葦はただそう返すことしかできなかった。