【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第5章 菊合
鹿鳴館の夜会から数日後、八重宛てに牛島家から手紙が届いた。
それは二週間後に行われる、菊合と呼ばれる花会に八重を招待するというもの。
元は菊の花を持ち寄って歌を詠み、優劣を決める宮廷貴族の遊びだったが、今回は菊の花を生けて愛でるだけの、いかにも公家出身の定子らしい催しだ。
「───牛島夫人の招待を辞退したいとは、いったいどういうことですか、八重様」
招待状を受け取った日の午後、ベランダで紅茶を飲んでいた八重の所へ赤葦が両目を尖らせながらやってきた。
やはり来たか・・・と、八重はティーカップを置く。
「闇路から伝えてもらった通りです。光太郎さんのお許しがあれば花会は辞退します。お許しいただけないようであれば、その日は体調が優れないということで欠席します」
「何を勝手な・・・旦那様の顔に泥を塗るおつもりですか」
「京治、言葉が過ぎます」
八重と一緒にいた京香が窘めるような視線を赤葦に向けた。
しかし、赤葦の怒りはその程度で収まるようなものではない。
「八重様、侯爵家からの名指しの招待を断ればどうなるか、貴方も分かっているでしょう」
「ええ、分かっているわ」
しかし・・・
“日美子さんが光臣様に相応しい御婦人ではなかったというのは周知の事実でしょう”
日美子のことを悪く言うような人達が集まる場などに行きたくはない。
「とにかく花会には行きません。あと、華道の師も別の方を探してください」
「そんなことが許されるとお思いですか?」
頑として首を縦に振らない八重を怒鳴るのかと思えば、赤葦は逆に冷徹な顔で見下ろした。
その瞳には軽蔑の色すら浮かんでいる。
和やかな午後のひと時が一瞬にして険悪な空気に変わり、京香以外の女中達はおろおろとした様子でベランダの隅に固まっていた。