【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第7章 冬の蝶
二日前に八重の肌に触れた指先が震える。
光太郎の朝の鍛錬がそろそろ終わる頃だ、着替えを早く持っていかねばならないのに、赤葦は両足が固まってしまったかのようにその場に立ちつくしていた。
「俺のしていることが、日美子様の御遺志に沿っているか───だって?」
八重を引き取るために奔走したり、八重が牛島家に嫁ぐよう画策したり、八重を凌辱したり・・・赤葦が裏でやってきたことの全てを雪絵は知っている。
最後に日美子と言葉を交わした人間である赤葦の行動の全てが、亡き貴婦人の望みを叶えるだめだと信じている。
「あの方の御遺志さえなければ・・・俺はどれだけ自由だったでしょうね」
俺は姉さんや雪絵さんと違い、選択の余地などないのですよ。
どちらかと言えば、黒尾さんに近いかもしれません。
恋心という呪縛とは少々違うが、俺も日美子様に囚われているという事実に変わりはない。
そして、その呪縛を解いてくれるだろうその人は───
「いや・・・もともと俺には自由などないか。それでいい、俺にできる事以外はできないのだから」
木兎家当主を陰ながら支える、それが自分に与えられた使命であり、唯一の存在価値。
赤葦はフゥとゆっくり息を吐き、姿勢を正した。
まだまだ危なっかしい光太郎を支えるのは大変だ、迷いや雑念は家令に不要なものだろう。
コツコツと足音を立てながら廊下を歩き、すれ違う使用人が頭を下げれば流し目で会釈をする、いつもの家令の姿に戻った赤葦は真っ直ぐと光太郎の部屋へ向かった。
着替えを手伝おう、そう思ってドアノブに手をかけた途端、表情が一瞬にして険しくなる。