【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第3章 秋霖 ②
「───とにかく、次は花会でお会いしましょう、八重さん」
「はい、ありがとうございます」
姿勢を正しながら手をついて頭を下げると、定子は満足げに微笑んだ。
英国では立ったまま右脚を後ろに引いて膝を曲げる、Curtsyと呼ばれるお辞儀が一般的だ。
正座をしてのお辞儀はほとんどやったことが無かったが、少なくとも形にはなっていたようでホッと胸をなでおろす。
“木兎伯爵家の御令嬢として、日本の社交界に合った礼儀作法を身に付けていただかなければなりません”
赤葦。
私は亡き父と母の名誉にかけて、決して“木兎家の恥”にならないことを証明するわ。
そのためには華道だけでなく、茶道も書道も完璧に習得してみせる。
静かに覚悟を定め、牛島家の玄関から闇路の待つ馬車へと向かっていた、その時だった。
「───Who killed Cock Robin?」
風に乗って聞こえてきた歌に、我が耳を疑う。
少しクセのある、しかし流暢な英語は八重の足を止めるのに充分だった。
「I, said the Sparrow」
冷たい秋風に乗ってきた、格式高い公家屋敷には似つかわしくない異国の童謡。
“誰がコマドリを殺したのか”
“それは私、雀が言った”
声のする方へ顔を向けると、逆立てた髪を覆うように学生帽を被った男が一人、門の下に立っていた。
「コンニチワ」
紫色の着物と袴。
その下に真っ白なスタンドカラーのシャツというのは、見たことのない着こなしだ。
彼は飄々とした笑みを浮かべながら、英国紳士の王室儀礼のように八重に向かって頭だけを下げた。