【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
ああ、“あの方”がよく口ずさんでいた歌が脳裏をよぎる。
とても愛おしそうに、とても悲しそうに、歌詞を一つ一つ噛みしめながら歌っていた、とても美しい人。
そう、白い薔薇のように美しい人だった───
「赤葦、赤葦・・・!!」
動きを封じるため、頭の上で交差するようにベッドに押し付けた両手首。
あと少し力を込めればポキリと折れてしまいそうなほどそれは頼りなく、恐怖に震えている。
「酔っているだけでしょう、今すぐ離しなさい・・・!!」
抵抗しようにも、初めて受ける“男”の力の前に成す術がないのだろう。
辛うじて肘を動かして逃げようとするも、僅か数センチすら起き上がることができない姿はまるで、水面に落ちてもがく小鳥のようだ。
その細い首筋に顔を寄せ、舌先で鎖骨を舐めると可哀想に身体をびくつかせる。
「やめて・・・どうしてッ・・・こんなことを・・・!」
八重は怒りよりも、ただいつもの赤葦に戻って欲しかった。
彼は理由もなくこんなことをする男ではない、そう信じていた。
何より、赤葦の顔には今、暗い陰が落ちていて表情がまったく見えず、怒っているのか、嫌悪しているのか、はたまた悲しんでいるのか、互いの吐く息が顔にかかる距離だというのに分からない。
「八重様、あまり抵抗なさらないように。骨を痛めます」
その静かな声に八重は背筋がゾッとした。
自分の願いに反して、彼の心の奥底に巣食う魔物が鎌首をもたげ、ジッと睨みつけてくるような感覚に陥る。