【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
光太郎と八重の祖父はすでに他界しているが、名を光圀といった。
維新によって廃藩となるまで大名だった光圀は、正妻との間に二人の男児をもうけた。
子はそれだけで、数人ほどいた妾との間にも庶子はなかったという。
長男の光臣は活発で武芸に優れ、次男の貴光は大人しく聡明な少年だった。
そして二人には、同じ国元で武家出身の子爵家の娘、日美子という幼馴染がいた。
日美子は明朗で美しく、光臣か貴光の許嫁となってもおかしくない評判の娘だった。
しかし、光圀が光臣の許嫁として選んだのは、日美子の二歳年上の姉だった。
「日美子様は妾が産んだ庶子だったのです。そして先代の許嫁となられた方は正妻の子でした」
この時間は誰も近寄ることのない、本館二階の客間。
赤葦はランプに小さな明かりを灯し、八重を客用の椅子に座らせた。
そして自分は、暖炉の上に飾られた光圀の代から受け継がれている燭台に自身の顔を映す。
「光臣様と貴光様は幼少の頃から知る日美子様をとても可愛がられ、成長してからも常に気をかけていたそうです」
日美子が社交界デビューした日も、両脇には光臣と貴光の姿があったという。
年々美しく成長していく日美子を二人はとても大切にしていたそうで、特に光臣は子爵家を訪ねても許嫁の姉ではなく、日美子にだけ会って帰るほどだった。
「でも赤葦・・・御一新の前ならともかく、庶子であろうと子爵家の娘だったのでしょう? そこまで光臣様がご執心だったのに、なぜお爺様は日美子様を許嫁となさらなかったの?」
「それは・・・」
赤葦は八重の顔を見て、表情を曇らせた。
この家には日美子の写真が一切残っていない。
だから八重はまだ、気づいていないのだろう。
「質問を返すようで申し訳ございませんが、八重様は旦那様を初めて見た時、どう思われましたか?」
「光太郎さんをどう思ったか・・・?」
八重は光太郎に初めて会った日・・・つまり、木兎家にやってきた日のことを思い返した。