第3章 金平糖
「兄さま、起きていらっしゃいますか…?夏蓮です。」
兄さまの部屋の前で膝をつくと、一声かけた。
まだ、夜はながい。
こんなに早く寝るわけがないとわかってはいるが、親しき仲にも礼儀ありと言うように、問いかけるのは当然だと私は思う。
「入れ。」
低く落ち着いた声を合図に室内へ入ると、蝋燭の火に照らされ、美しい横顔が目にはいった。
「どうした?」
「はい…。暗い場所に一人と言うものはなかなか慣れず、怖くて眠れませんでした。できれば…兄さまと共に…」
筆をおいて向き直ってくれた兄に向けて、目をそらさずに素直な気持ちをぶつけた。
長い間、兄とは一緒に過ごしていない。
当然、私の性格さえも知らないだろう。
私の気持ちを聞くと、ふっと微笑み、手を差し出してくれたので、不思議に思いその手をとると、兄さまの布団へと横にさせられた。
「俺の仕事も時期終わる。少し横になって待っててくれ。」
「はい。」
そう告げると兄さまは私に背を向けて仕事を始めた。
私は待つとは言ったものの、側に兄さまがいる安心感から睡魔がやって来てしまった。
少しずつ、少しずつ。
視界からから蝋燭の明るみが消えていった。