第1章 【ビターチョコ】菊丸英二/夢主
「小宮山さん、すっかり遅くなってごめんなさいね、でも助かったわ。」
「いいえ、学級委員として当然ですから。」
「本当にいつもありがとう、気をつけて帰ってね。」
「はい、失礼します。」
担任の先生に、頼まれた仕事が終わったことを告げると、ぺこりと頭を下げて職員室を後にする。
何も考えるな。
何も感じるな。
心を無にして言われたことをこなすだけ・・・
「ね、チョコ、どうする?」
「今日、お店覗いてみようか?」
すれ違う女生徒の会話に思わず足を止める。
チョコ・・・?
あ、そうか・・・もうバレンタインなんだ・・・
気がつくともう2月上旬で・・・
女の子も男の子も、街中が浮き足立ってるこの季節・・・
「ね、誰にあげる?、私は英二!」
ピクっと揺れる肩。
ドキンと跳ねる心臓。
思わず振り返りそうになり、グッとその衝動をこらえる。
私には、関係ない。
バレンタインも、彼が誰からチョコをもらおうとも・・・
大きく息を吸うと、また心を無にして歩き出す。
そう、関係ない。
この気持ちを伝えるつもりなんかない。
ただひっそりと、彼のことを想うだけ____