第1章 【ビターチョコ】菊丸英二/夢主
バレンタインデーの放課後、明らかな義理チョコを受け取ると、じゃーねー、そう作った笑顔で手を振った。
ったく、こーんなやっすいチョコで、高級スイーツってどんだけ図々しいんだよ?、そう呆れながら鼻で笑う。
「ま、いいや、また一個、お菓子ゲットー・・・」
ポンポンと2、3回手の中で転がして、それから大量のチョコが入った紙袋へと放り込む。
バレンタインの今日は、毎年恒例だけど、朝から沢山の女がチョコを持ってきて・・・
こんなんで必死になって、ほんと、バカじゃねーの?、なんて思うんだけど、やっぱ貰えないよりは貰える方がいいに決まっていて・・・
校門に差し掛かったところで気がついた、うちの学校指定コート。
チョコを渡す相手を待っているであろうその肩が、近づいた途端、ピクッと小さく跳ねる。
あー・・・オレ?
その女がオレを待っていたのはすぐに分かったけど、その明らかに本命チョコの雰囲気に、面倒だからいいや、そう気が付かないふりして素通りする。
通り過ぎる間際、チラッと横目で様子を伺うと、その女は耳まで真っ赤にして俯いていて・・・
髪の毛に隠れ顔はよく見えなかったけど、結構レベル高そうで、ピューっとこっそり口笛を吹いた。
ま、どんなにハイレベルだとしても、学校関係には手を出さないけどね・・・
そう、きっと今頃、オレの背中を眺めて切ない顔をしているであろう、その女に嘲笑う。
♪~
「ほいほーい、オレー!」
いつものカラオケ屋の仲間からのLINE通話が入る。
あー、うん、いくいく!、その誘いをふたつ返事でオッケーする。
学校での甘ったるいバレンタインも悪くないけどさ、やっぱオレにはこっちの方が気が楽で・・・
「さ、今夜は朝まで乱交パーティだ!」
しゅっちにっくり~ん♪、そう語尾を跳ねさせ足取り軽く帰宅の途へとついた。