第5章 平行線
数日後の夜、私はいつも通り京治の部屋に遊びに来ていた。
「最近、いろんな人に聞かれるの「赤葦くんと付き合ってるの」って」
月刊バリボーを読んでいる京治に話しかける。
「へぇ」
関心のない声で京治が相槌を打つ。
「明日のバレンタインは覚悟しておいた方がいいかもね」
「そういう春華こそ、俺も同じようなこと何人にも聞かれたよ」
「え?バレンタインって女から男に渡すものでしょう?」
「最近流行ってるらしいよ。好きな女の子に渡すんだって。何だっけ…逆チョコ?」
「へえ」
そんなものがあるのか。別に流行に疎いわけでも無いと思うのだが、その話は初耳だった。
「俺らそんな風に見えるのかな。登下校は一緒だけどさ」
「京治はなんて答えたの?」
「何てって、俺ら幼馴染じゃん」
「…そうね」
"幼馴染"。
それはとても近いのに遠いのだと改めて思った。
「でも、じゃあどうして京治は誰とも付き合わないの?」
「え?」
京治が少し目を見開く。
「よく告白されてるじゃない。試しに誰かと付き合ってみたらいいのに」
本当は知ってた。
京治が誰も選ばないこと
「ねえ」
それが私のせいだってことも。
「"何考えてるか当てようか"」
「…当たらないよ」
「私、京治の事なら自信あるもの」
「絶対無理。だって俺、自分でもよくわかってないし。それぞれ帰れば?もう9時だし」
素っ気なく返す京治。
「自分が誰かと付き合ったら私が傷つくと思ってる。正解?」
私が京治こと何でもわかるように、京治だってきっと同じ。
知ってるくせに。
「…進路、わざと京治と同じところを選ばないようにしたの。ずっと一緒だと、私たちの関係は平行線だもの。幼馴染はずっと幼馴染じゃないと駄目なの?」
「何言ってんの。春華は春華じゃん」
少し眉を寄せていう京治に悲しくなって部屋を出る。
「もういい。帰る」
「え、ちょっと…」
「京治のバカ!嫌い!」
気づいてるくせに。
私の気持ちなんてとっくに。