第3章 バレンタインデーイブ
『……大きな声出さないでよ、驚いちゃうから』
でも、一瞬戸惑った表情も
すぐに大人の余裕に塗り替えられる。
俺は春華のこの表情が好きじゃない
「子供扱いしないでよ」
『何言ってんの、
まだ徹は子供なんだから、子供扱いも何も…』
春華は
ハハ、とまゆを垂らして宥めるように笑う
あーなんなんだろう…すごくイライラする…
「……子供、か
なら、こんなことしても平気だよねぇ?
俺、子供なんだし」
『と…とおる?』
綺麗に塗られた口紅が、真っ白な制服のジャケットを汚したって構わない。
いっそのこと、汚してほしいとさえ思って抱きしめる。
春華の体が少し強張るのを感じて
及川の口元に薄く笑みがこぼれる
(ほら、俺のこと子供扱いしてないじゃん…)
子供相手なら、抱きしめたって平気なフリしてくれないと…
「俺、背伸びたでしょ?」
『うん…』
頭部に触れた唇で聞くと、戸惑ったような声で返事が返って来た。
「頭も顔も悪くないと思うんだけど…」
『…うん?でも、徹って元々勉強もできたし、スポーツも』
やっぱり何も分かってない
俺がどんだけ努力したと思ってるの
勉強も、バレーも、全部春華の彼氏に負けたくない一心で努力して、努力して…
ただ、気づいて欲しかった。
俺の方が、そんな奴よりいい男だって
それなのに、春華の隣にはいつも
俺の努力を嘲笑うみたいに春華の同年代の彼氏がいて
どれだけ追いかけても
縮まらない歳の差に、もういい加減疲れて来たよ
俺だって…なんで春華じゃないといけないのさ
カバンを2ついっぱいにするくらい、
俺のこと本気で好きになってくれる女の子達がいるのに
そう思うと、もう、何もかもがどうでもよくなって来た。
いっそ嫌われてしまえば、諦められるのだろうか。
「ごめん…俺、今から最低な事する…
嫌なら逃げて…」