第3章 バレンタインデーイブ
「今の、ダレ」
思ったより、冷静さを失った怒気をはらんだ声が出て
自分でも一瞬驚いたけれど、それよりもイライラの方が強く
春華を見つめたまま、静かに返事を待つ。
せっかく繋がっていた視線は、ゆるゆると外されて
『あー…ゼミの元先輩?みたいな』
煮え切らない返事が返ってくる
その曖昧さに更に苛立ちが増して
ズカズカと詰め寄って腕を掴んだ。
「彼氏?」
『な、なに…違うよ…』
春華の瞳が不安そうに揺れる
こんな優しくないこと、俺らしくないししたく無い。
女の子…いや、春華には優しくしたいのに
今の俺には、そんな余裕は無いみたいだ。
「じゃあ、好きなの?あいつのこと」
『違うよ!それはない』
やっと目を上げて、俺の目をしっかり見て
そう言ってくれたのに
言い終わった頃には、また目を逸らされ顔を真っ赤にして俯いてしまった。
こんな顔を見たのは、春華と知り合って10何年の中で初めてのことで…
知らない間にこんなに女の表情をするようになったのかと
胸がムカムカしてくる。
「…じゃあさ、アイツにチョコ上げた?」
前髪で半分以上顔は見えない。
キュッと結ばれた唇、ワンピースの胸元からは綺麗なデコルテが覗く。
『あげた…けど、義理チョコだよ』
返事を聞いた途端、ガツンと殴られたような痛みが胸を襲った。
肩を握る力がどんどん強くなっていって、痛かったのか、春華の表情が少し歪んだ。
「俺には…もう3年も、当日にくれないのに…
あいつには今日あげるんだぁ…
春華は、あぁいうインテリ系がタイプ?」
『だから違うって…』
「何が違うのさ!!!」
噛み付くような大きな声が出てしまって、春華の肩がビクッと跳ねる