第15章 -払拭 [R-18]
コンコンッ…
「セレネ…」
「……。」
セレネが部屋から出てこなくなった。
いや、あの日から出ていない
部屋から一歩も出ず 食事も受け付けず…ただ唯静かに部屋にいる。
身の回りの世話は、メイドに頼んでいるが 話を聞いても あまりいい返事は、帰ってこない。
「…セレネ、公務に行ってくる。帰ったらまた来るから、その時は、会って…」
「…。」
返事のない扉を見つめていたが 微かに俯くと 小さな息を吐き 何も出来ない歯がゆさから 手を握った。
ルイは、毎日話しかけてくれる。
でも、私は 返事ができない…声を出そうとすると喉の奥がキュッとする だから 結局出すのをやめてしまう
窓の外に視線を移せば 大きな窓には、雨が叩きつけて リズムを奏でている。
窓に近づき そっと 硝子に触れる 硝子に当たった雨粒がツーっと伝って落ちていく
灰色の空、まるで自分の心の様
晴れ渡る 青空より 今は、灰色の空が心地いい。
このお部屋にくるメイドさんは、一人。
きっと…ルイの配慮
食事を持ってきてくれたり 支度を手伝ってくれたり…話しかけてくれたり…
灰色の空を見上げていた視線を 落とせば ルイが雨の中こちらを見上げてるのが見えた。
咄嗟に 窓から離れ…胸の前で手をギュッと握った。
見られていないと思う…
(…公務って言ってたよね…)
静かに溜息をつき 鏡に自分を写した。
ひどい顔 ひどい肌の色 カサカサの唇 …何もかも酷く見えて鏡から視線をずらした。
食事が喉を通らなくなった。
食べても吐き気がする…だから、食べるのをやめた
ルイは、優しい。
声を荒らげず 優しく語りかけ そっとそばに居てくれる。
無理強いもしない 今は、ゆっくり休めばいいと言ってくれた。
その優しさに私は、漬け込んで 真っ暗な心の闇から抜け出せない。
どれくらいぼうっと鏡を見ていたのだろうか…
光が見えない…この、曇り空より 私の心は、もっと黒ずんでいるのかもしれない。
私は、汚れているんだ…また、触られた所が気持ち悪くなる…感覚が蘇る…
(…洗わないと…)