第3章 -ウィスタリア
そんなセレネの様子を見下ろしていたジルは、口元に微笑みを浮かべ目を細めていた。
「私はまだ 仕事がありますので…どうぞお楽しみください。」
綺麗なお辞儀をするとセレネを残し 広間から出ていってしまった。
待ち合わせている【マリア】の事は、既に馬車の中で伝えていた為問題は無い。
が、自分は、ここでどうしたらいいのか…女性達の輪にも入れず……
結局、マリアが来るまで待つことにした。
(『お楽しみください。』って言ってたよね…広間から出てもいいのかしら)
そっと広間を後にすると、来る途中見かけた 中庭に来た。
小さく伸をすると ポカポカと気持ちのいい空を見上げ 中庭を見て回っていると シュタインの中庭と同じように シロツメクサの咲く一角を見つけ 腰を下ろすと お得意の花冠を作り始めた。
元々何かに熱中することが好きだったのだろう。
ここが何処なのかも忘れ花冠を作っていた。
「…何してるの」
声のした方を見上げる
太陽の光に反射されキラキラと光る金髪 眩しくて 手で光を遮ると 透き通るような青眼の男性が自分を見下ろしていた。
「…ぇ…あ、シロツメクサで花冠を…」
「…君は、プリンセス選考会に来たの…?」
「…選考会?…」
「……そうじゃないなら、直ぐに帰った方がいい……」
酷く、冷たい冷静な言い方だったが どうやら心配してくれてるということだけは分かった。
感情の読めない男性は、ゼノやアルを見ているのでよく知っている。
「…ぁ、ありがとうございます?…」
「………なぜお礼を言い?がつくの……」
「…心配して下さっていたようなので…何となく…です……」
「…クスッ…君は、変わっているね…」
なぜ自分か笑われたのか分からなかったし 《変わっている》と言われたことも今まで無く戸惑ったが 何だかちょっと恥ずかしくてふふっと笑ってみせた。
少しだけ頬が赤くなっていたのは、自分でも気が付かなかった。
お互い名前を名乗る訳でもなく ほんの少しだけその綺麗な男性と話をしていた。
そんな二人の姿を別の所から三人が見ていたのには、気が付かなかった。