第17章 -揺れる気持ち
「愚痴ってもいいんじゃない?セレネ様は、昔から我慢しすぎ。俺がいるのにさっ」
「…ユーリ…。」
「人に話して楽になることだってあるよ。…それにさ…頼られて嬉しくないわけがないよ。」
華奢に見えるけれども 実は、筋肉質なユーリ。
目の前に見える背中は、とても大きく 薄暗くなっているのに輝いて見えた。
「ありがとう…ユーリ。」
「ん、俺が聞きたいだけなんだけどさ。」
「あのね …ずっと、蓋をしてきた気持ちに、やっと目を向けて…先に、進まなきゃならないのに
人を、傷つけることが怖くて…躊躇してるの。」
クルリと私の方を見ると ストンと噴水の緣に座る私の隣に座りユーリが続けた。
「それって…昼間来てたクラーク公爵の息子に言われた言葉と関係あるの?」
視線を揺れるチュールに落とし 少し俯いて答えた。
「……。うん。」
「そっか…でも、人間さ…誰かを傷つけるのが怖くて当たり前だと思うよ。」
「え?…」
「…親だって、子供を傷つけるのを躊躇う。それが他の人なら尚更ね…。セレネ様が言ったように 心の傷は、癒えにくい。体につく傷と違うからさ。でも、何かを得るためには、何かを捨てる必要だって時としてある。進まなきゃならないのに立ち止まる必要も無い。自分の本音なら…尚更じゃない?」
「でも…自分の気持ちの為に誰かを傷つけるのは、違う気がするの…」
「誰かを傷つけることで、自分が傷つくことを恐れちゃダメたよ。」
ハッとした…『人を傷つけることが“怖くて”』…私は、自分が傷つくことを恐れていたんだ。
伝えなければならないことを 先延ばしにして曖昧にして遠ざけて
自分が傷つくことを避けていた。
「それに、セレネ様は、充分傷ついて我慢してきた。自分の気持ちに蓋をしてまで頑張ってきたんだから、もう 気持ち解放してあげなよ。」
「ん…ありがとう。」
進むことを恐れていたら 前進なんて出来ない。
本音を隠したら成長も出来ない。
ユーリは、食事の時間だからと私の手を取り 食堂まで連れていき
食後に 私の好きな紅茶を入れてくれ ほっとした気持ちで休むことが出来た。