第28章 秋の夜長に春ひとつ
「ありがとうございました~」
「ふぅ…もうこれで終わり、かな…」
「お疲れっす」
最後のお客さんを見送って
暖簾だけ取り込むと
片付けもそこそこに
座る大野さんの隣に俺も腰掛けた
あの行列初日から2週間
客足は引く所か増す一方で
「毎日…凄いね…」
「ほんとに、有難いことすけどね…」
バキバキに凝った体を
んーっと大きく伸ばす
お袋さんの体調が戻るまでは
このまま2人で乗り切るしかないけど
さすがに堪えてきたな…
疲れの色を滲ませる横顔に
湯気立つ湯飲みを差し出すと
ふわん…って穏やかに笑う
穏やかに笑う中に
艶めきも混ざるその表情に
小さく胸がときめいた
…だめだ、落ち着け俺…
側にいられるだけで…幸せだろ…
暴走しそうになる気持ちを抑えようとした時
笑顔にまた艶が乗って
「カズ…この前の言葉…
まだ、有効…かな……?」
少し潤む不安げに揺れる目に
小さかった胸の鼓動が早くなってくる
「そ、れ…って…」
「僕…カズのこと…その……」
みるみる赤らんでいく顔に
心臓は一気にバクバクと脈打って
これって…そゆこと、でいいんだよな…
少しためらいながら体を引き寄せると
温もりが強く伝わってきた