第28章 秋の夜長に春ひとつ
「…雅紀!」
「あ、かずちゃん♪おはよっ」
列の最後尾に立つ雅紀に駆け寄って耳打ちする
「お前、会社は?」
「外回りって言って抜けてきた♪
店の様子見たくって」
「ん?てことはこの列のこと…
何か知ってるのか……?」
「みんなコレ見て来たんだよ♪」
スマホの画面をスイスイっと指先で動かして
開いたのは有名なブログサイトで
「…え、これうちの店じゃん…」
外観の写真に店内の写真まで載せられてた
下にスライドして見ていくと味のコメントが載ってて
『昔ながらの中華そば。シンプルな味付けながらも深みのある、柔らかい醤油味🍥懐かしい味が好きな人はぜひ一度食べてみて♪』
添えられた写真にはラーメンと共に写る男性の顔に驚く
この人…前に店に来て写真撮ってた…
「ふふ…翔ちゃんのブログはやっぱ
効果バツグンだったな♪」
「雅紀…この人と知り合い…?」
んふふーって含み笑いをしてから
事と成りの説明を始めた雅紀の言葉を聞く
店の集客状況が芳しくないことを心配した雅紀が
最近出来た恋人に店の紹介を頼んだ、ということで
恋人が有名なグルメブロガーとか初めて知ったぞ…
「…もしかして、この前嬉しそうにしてたのって…」
「絶対集客に繋がるだろうなって思って♪
驚くかずちゃんの顔想像したらなんか嬉しくって♡」
ふと思い出したこの前の変な笑みはこれだったのか…
並ぶ男性が時間をチラチラ気にしてて
気付けばもう開店時間5分前
「雅紀、お礼は今度するなっ」
「うん、頑張ってねかずちゃん♪」
挨拶もそこそこに仕事に向かった雅紀を見送って暖簾を出して開店させた