第5章 教訓「口は災いの元」
- 松本 side -
「大野さん、もっとよく捏ねて!」
にちゃにちゃとミンチ肉を捏ねる大野さん
飽きてきたのかちょっと遊び気味に捏ねながら言う
「ねぇ、まだ捏ねなきゃダメなの?」
「ま、だ!カズの喜ぶ顔見たいならもっと捏ねて!」
俺の言葉にやる気を取り戻した大野さんがボウルを抱えて必死に捏ねていく
ここ最近、ずーっと大野さんが俺にへばりついてせがんできたこと
それは『かずに美味しいハンバーグを作ってあげたいからレクチャーして!』というものだった
最初のうちは面倒くさいから軽くあしらってたんだけど、顔を合わせるたびにずーーーーっと言ってくるもんだから、あまりの熱意に絆されて今に至る
あー今日は久々に雅紀とイチャイチャできると思ってたのに…
早く終わらせて帰らなきゃ…
「あ、もういいよ…で、こっちの粗挽き肉を追加して、今度は緩く捏ねて?」
言われた通りにした大野さんに形成するポイントもレクチャーしているとどこからか聞こえる振動音
テーブルの上にある大野さんのスマホが鳴っていた
それを覗き込むだけで取らない大野さん
「出なくていいの?長い事鳴ってるから電話っぽかったけど…」
「うん…かずからだったけど、今こっちで忙しいからあとでいいよ…」
しばらくして止まった振動音
俺には想像がついた…今電話の向こうでカズはきっとイラついていることだろう