第28章 秋の夜長に春ひとつ
それからは何も語ることもなく
たまに優しく入る指示に従いながら
ただ静かに…料理を手伝い続けた
心配で気にしていた大野さんの様子は
調理が進むにつれ
不安げに揺れることは無くなっていて
終盤、煮込む鍋を見つめる頃には
迷いのようなものは消えていた
「…はぁ、出来た……」
作りはじめて三時間経った時
安堵の笑みが溢れて
ぁあ…やっぱこの人は
笑ってる顔が一番だ……
どんぶりに盛ったご飯に
出来立てのルゥを掛けて
「「いただきます」」
流しの前で丸椅子を並べて
二人で小さく手を合わせた
…これが、大野さんの原点……
ドキドキしながら
レンゲでカレーを掬う
「…どう、かな……?」
「…………ぃ…」
「え、なに…っ?」
「…うまぃ!!」
「ほんと!?良かったぁ……」
一口で広がる濃厚で旨味の強い味
今まで食べたどのカレーよりも
美味しくて
「そんなに慌てなくても、
無くならないよ?(笑)」
一口、また一口と次々に口に運んでた
最後の一口、レンゲを咥えた瞬間
「…カズ……」
「ほぁい?」
「僕のこと…好きって言ってくれて…
……ありがとう」
穏やかに見つめる目にまた心臓が跳ねた
「でも、ね…僕…まだ…」
「う、うん…それは、別に…」
告白のこと触れてこないし
さっきの話も聞いてたから、さ…
返ってくる言葉なんて、
わかってたことなのに声が上擦った
…カッコ悪、俺…
「あの、さ……」
「…?なんですか…?」
少し咳払いをしてから返す
「僕…これからもここにいても、
いい…かな……?
その…凄く安心するっていうか…」
「そ、それはもちろん!
大野さんさえよければ、ずっと…」
食い気味に言った言葉に
一瞬目を見開いてから
ゆっくり…笑顔が溢れた
どんな形でもいい…
側に、いたい…
「これからも、よろしく…」
差し出された手を握り返した