第28章 秋の夜長に春ひとつ
絞り出す声がとても痛々しくて
「…もう、いい…」
震える体を更に強く抱き締めた
ただ愛し合ってただけなのに…
そんな悲しい選択……
肩口に押し付けられて見えない表情
あの時の…
朝に見た、悲痛に歪む顔…
今もしてるだろうな……
咄嗟に出てこない気の効いた言葉のかわりに
頭をそっと撫でると震えが小さくなった
しばらくして
小さく漏れてた泣き声が消えると
体に掛かってた重さが引いて
上げた瞳は少し赤くなっていた
小さく息を吐いて
「カレー、早く作らなきゃね…」
軽く笑い、
残る涙の跡を消すと
カレー作りを再開した
俺もまたピーラーを手に取って
下準備の手伝いを始める
話を聞く前より
大野さんのことが気になって
ちらちら…と、
視線を送ってると
カットする手が手際の良さの中に
未だ不安定さが見え隠れしていた
たまに危なく揺れる手
その不安定な手に触れようかと考えては
その気持ちを頭から拭った
辛さとか、悲しさとか…
必死に塞き止めてる大野さんが
それを望んでないように、見えたから…
料理を集中して続ける隣で
見守りながら俺も手を動かした