第28章 秋の夜長に春ひとつ
バランスを崩し
目の前で後ろに傾いていく体
引き寄せて俺の腕の中に閉じ込めた
腕の中の彼は小さく謝ってから
お礼を言って
心の奥底に閉じ込めてたことを
俺に聞かせてくれた
「…潤はね…もともと…
お父さんのお店を継ぐため
料理人になったんだって…。
何代も続く洋食屋さんの息子だって…
当時の僕は、そんなこと知らなくて…。
ただ一緒にいることが幸せで…
僕が呟いた、一緒に店やりたいって夢が
実現するってことで気持ちが浮わついてて…
潤が僕との店をやることで
家族と揉めてたってことも知らなかった…
店オープンしてからしばらくして…
…潤の…お姉さんが…店にやって来て…」
店に乗り込んで来た
松本さんのお姉さんに
毎日別れるようしつこく詰め寄られて…
ある日、仕事終わり
待ち伏せされてたお姉さんに
歩道橋の上から突き落とされた、と……
か細い声でそう言って
腕の中で震えた体をぎゅっと抱き締めた
「突き落とされても…
僕だけが危害を加えられるくらいなら…
我慢したらすむ話だと思ってた…
潤も…別れる気はない、
店もやめる気はない、って言ってくれてたから
どうにか説得しようと思ってた。
でも、病室で目が覚めたとき…
静かに僕を睨み付けてたお姉さんと
目が合った瞬間…呟いたんだ…
別れないならあなたも…
……潤も消してやる…って…」