第28章 秋の夜長に春ひとつ
「馴染めないでいる僕に、
声掛けてきてくれたのが潤でさ…。
戸惑う僕に優しくしてくれて…
最初は普通に友達だったんだけど…
気付けば……
ずっと隣にいてくれる潤のこと…
好きに、なってて…」
小気味良い包丁の音の中、続く言葉
皮剥きをしながら
耳に神経が集中していく
「卒業の日にね…
潤から…告白してくれて…。
あのときは本当に…嬉しかったなぁ…。
…それから…お互い違う職場で経験を積んで…
途中で抱いたお互いの夢…
2人の店を持つことができて…
これからもずっと…
…一緒に……いると…
………思ってた…けど…」
徐々に震え出した声
止まった手に1つ
雫が…落ちて
…泣いてる……?
「潤のため…にね……
僕からお別れしたの……」
ふふ…って軽く笑って顔を擦るとまた
まな板の上で包丁が音を立て始めた
「…松本さんの…為……?」
「……そ…じゅんの、ため…」
「…………本当に、そうなんですか…?」
俺の言葉にまた手が止まった
「…松本さんは、本当にそれを
…望んでたんですか…?
朝見た時…そんな風には…」
「…だって!そうすることが潤の…っ…
幸せになるんだって…っ、
…っっ……言われたからっっ!」
途中で重なった声は悲鳴のような
悲痛な声で
上げられた顔は溢れる涙で
次々に濡れていて