第28章 秋の夜長に春ひとつ
作業台に広がった食材たち
その中の1つ
玉ねぎを大野さんが手に取るから
俺はじゃがいもを手に取った
今なら…話、聞けるかな…
松本さんとのこと、
訊ねようかと視線を横に移すと
じっと見つめる瞳と重なって
まばたき1つしない目には
固まる俺の顔が映ってた
真剣な瞳になにも言えなくて
ただ…見つめてたら
覚悟を決めたように
唇がきゅ…っと引き締まってから
少しだけ口角が上がる
「どこから話そうか…」
手元に視線が戻って
玉ねぎがまっぷたつになる
「…僕と潤はね…専門学校で、
出会ったんだけど…」
小気味良い包丁の音が鳴る中
ゆっくり…
昔話を語るように語り始めた声を聞きながら
蛇口を捻った
「…僕さ、話すこと得意じゃなくて。
新しい環境ですぐ友達出来なくてさ…」
水音の大きさに驚いて
慌てて捻りすぎた蛇口を戻した
まな板に向けられてた視線が
また俺に向けられて
「そんなに洗わなくていいよ?
それ、泥付いてないし」
「…あ、そうすね……」
くすくす…笑う姿がやっぱ可愛くて
顔が急に熱くなる
は、恥ずかし…っ
俺テンパりすぎ…っ…
桶に浮かべたじゃがいもを回収して
ピーラーを手にした時
大野さんがまた話始めた