第28章 秋の夜長に春ひとつ
「…ん。と……」
店から一番近いスーパーに着いて
自動ドアの目の前
ジャンパーのポケットに押し込んでた
メモとお札を取り出す
ポケットから出した五千円札は
無造作に突っ込まれて
くしゃくしゃになっていた
メモを渡されて出ていこうとした瞬間
年上だし、これくらい出させて…
って渡されて
「いらない」「使って!」の
押し問答を数回したけど
結局ポケットに押し込まれた
確かに年上だけどさぁ…
俺が無理言って手伝ってもらってんだから
気を遣わなくて良かったのに…
使ったようにして
あとでそっと返すか…
そんな考えが頭をよぎったけど
同時に膨れっ面の大野さんの顔も
頭をよぎった
…ここは、好意に甘えておくのが
ベスト……なのかな…
皺だらけの五千円札を
綺麗に二つ折りにしてそれだけ
ポケットに戻した
店内BGMがよく聞こえる中
メモを頼りにカゴに
食材を入れていく
じゃがいも、にんじん、玉ねぎの
定番のものから
インスタントコーヒー…
鯖の水煮缶…に
ルウがコレとこれ…か……
どんなカレーになんだろ…
カゴいっぱいに埋まっていく
買い物リストのものを
買い忘れがないか確認して
精算後、袋いっぱいに詰め込まれた
食材を抱えるようにして店を出た