第28章 秋の夜長に春ひとつ
「…お客さん…喜んでたみたいだね」
どんぶりを下げてきた俺に
穏やかに微笑む笑顔が向けられて
小さくガッツポーズをとる
同じガッツポーズをするとまた
さらに笑顔がくしゃってなって…
この人の笑顔見てるだけで、
じわっ…て胸が温かくなる
この笑顔が…
俺だけの特別なものだったらいいのに…
「どうかした?」
「あ、い、いえ……」
どんぶりを持ったまま
立ち尽くしてる俺を
不思議そうに見る大野さん
何事もなかったように
そのどんぶりを洗い
次の来客を待つ、も……
「お客さん、来ないね…」
「まぁ、いつもこんな感じだし…」
ぱたりと静かになってしまった店
静寂にたまりかねて
話題を探す
頭の片隅にあった
松本さんとのことがすぐに
話題候補に上がったけど
俺からは聞きにくいよな…
チラリ…と
横にいる大野さんを見ると
視線が合って
「ねぇ、僕たちもご飯にしない?」
「…そうしますか…」
二人でラーメンを食べて
その味を堪能しながら
親父さんやお袋さんとの
昔話をしたり、聞いたりしてたら
壁時計の鐘の音が3回鳴った
「あ、もうこんな時間?」
「…昼の時間終わりすね…
……暖簾…入れてきます」
「じゃあ僕、洗い物しとくね」
流しにどんぶりを置いて
表の暖簾を中へと取り込んだ