第28章 秋の夜長に春ひとつ
奥から店の扉の開く音がして
訪れた離れる理由に
少し良かったような…
けど惜しいような気持ちで
客席へと戻ると一人の男性客
田舎の、昔ながらの店には少し
違和感を覚えるほどの
清廉された雰囲気で
「ラーメン、一つ」
スマートに腰掛けながら
ラーメンの注文を頂いて
厨房で休んでた大野さんにお願いして
さっき再現できた
親父さんの味の一杯を提供した
カウンターテーブルに置いた
その一杯を穴が開くほど見つめてから
スマホで手早く写真を撮ると
豪快にどんぶりを持ちスープを啜り始めた
スープを堪能するとすぐ
麺を啜りだして
吸い込まれるように食べていくのを
割りばしとか補充しながら
横目で見つめる
無心で食べているけど
目が少しだけ笑ってるように見えて
その顔に内心、
胸を撫で下ろした
「…ごちそうさま!美味しかった…っ!」
「ありがとうございますっ」
満面の笑顔で立ち上がるお客さんに
頭を下げる
雅紀以外で食べたあとのこんな笑顔…
見られる日が来るなんて…
大野さんには本当に感謝だ…
「あ、そうだ。店内、写真撮っても…いい?」
「え、あ…ど、どうぞ…」
急なお願いに少し驚いて返事すると
スマホで数枚撮ってからそのお客さんは
にこやかに、また来ますと言って帰っていった