第28章 秋の夜長に春ひとつ
透き通るスープをゆっくり…
…流し込むと……
喉から鼻へと抜けていく味
記憶にある、あの懐かしい味が…
広がって……いく……
自然と閉じてた瞼の裏に
さっき脳内再生された
懐かしい光景がはっきりと…映った
「…どう……?」
「……」
「…やっぱダメ…っ…
…え、えぇっっ??」
味を堪能してから
目を開けると
おずおず…
確認するように聞く彼の顔が
見えた瞬間
むぎゅって力一杯抱き締めてた
「凄い、凄いよっ!
親父さんの味だよ、これっ」
「え、ほ、ほんとに…?」
「ほんとに!ありがとうっっ」
興奮状態のまま
腕の中の大野さんの体を
しばらく何回もハグしてから
ふと、我に返って
…慌てて体を離した
な、何やってんだよ俺…
どさくさに紛れてハグとか…
慌てる俺とは違って、
離して見えた大野さんの表情(かお)は
安堵からか柔らかく微笑んでた
「良かったぁあ……」
はぁあ…と大きな息を吐きながら
離した距離がまたゼロになって
俺の胸にぽすっ…て
体を預けてきた