第28章 秋の夜長に春ひとつ
昼のオープン時間30分前には
なんとか店へと戻れて
いつもと同じように
親父さんが守ってきた、
大切な暖簾を出して店を開けた
松本さんとの話…
昼の時間終わってから…かな…
厨房で作っていたスープに
また真剣に向き合ってる姿を
遠くから見つめながら
カウンターを水拭きして
来客に備えていた
「…はぁ」
来客への準備もむなしく
オープンしても店は変わらず静かで。
長針と短針が同じ所で止まるまで
店の扉が開くことがなくて
カウンター内で一人ため息をついた
ようやく扉が開いたかと思って
張り切って挨拶をするも
暖簾をくぐってきたのは
見慣れた腐れ縁の顔
「かずちゃ~ん!来たよ♪」
「なんだ雅紀かよ…」
「もう!毎回毎回なんでそんなこと言うかな~…
俺だってお客さんなんだからね!」
案内するまでもなく
俺の立つ目の前のカウンターに
どかっと勢いよく座る
「ハイハイ…ラーメンね」
「んふふ…今日はね、
チャーシューましましで♡」
「めずらし…なんかいいことでもあったの?」
「うん…ちょっとね~…♪でも、内緒♪」
ニヤつくだけで理由を言わないから
相手もそこそこに厨房に行って
スープ作りに集中してる大野さんを
邪魔しないようにしながら
チャーシューましましラーメンを作る
…この人集中したら
周り見えなくなるタイプだな…
横を通りすぎようが
後ろで盛り付けしていようが
全くの無反応で
集中する真顔を
たまたま動かした視線の先で捉えたら
普段の柔らかい雰囲気とのギャップに
少しだけ心臓の鼓動が速くなる
「かずちゃーん!ラーメンまだぁ?」
「もう出すってーのっ!」
止まってた手を動かして
真剣な大野さんに心の中で感謝しながら
雅紀ご指定のラーメンを作り終え出した