第28章 秋の夜長に春ひとつ
「…さっきは、ありがとう」
お袋さんを自宅に送り届けた帰り道
少し前を歩く大野さんの声が
瞬間的にふいた冷たい風に乗って、届いた
「さっき、ってどれのことですか?」
なんとなく…思い当たる節はあったけど
あえてぶっきらぼうに答える
「…告白の、こと」
一定の距離を保ったまま進む足が
ピタリと止まって
少しだけ斜になった顔が
こちらを見た
雲間から差し込む弱い光に照らされた顔は
眉を下げた少し、困った様にも見えて
「…そんなことありましたっけ…」
なかったことにしようとそう呟いて
横を通り過ぎようとしたら
止まっていた足が横で並ぶように進みだした
「最後まで聞いてよ…
僕、嬉しかったよ?カズの気持ち…」
「…でも、困ったような顔してた…」
「困ってるんじゃなくて、戸惑ってるだけ…」
そりゃそうだよな…
好意で手助けしようとしてたやつに
急に告白なんかされたらさ…
「…けど、本当に嬉しかった」
ただ前を向いたまま歩く俺に向けられた視線
ちらりと見やると
好きな穏やかな笑顔がそこにあって
「後でちゃんと潤とのこと…話すから。
今は…早く店に戻らないとね…
もうすぐ営業時間…」
「慌てると危ないから!ゆっくりでいいよ…」
杖を片手にスピードアップしようとするのを
制止して
二人肩を並べて店へ戻った