第28章 秋の夜長に春ひとつ
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「…さむ…っ」
じんわりと伝わる足元からの冷たさ
それに意識がはっきりして
あれ、俺……
いつの間に寝てたんだ…?
キッチンについてた両腕から
頭を持ち上げると
肩に掛けられていたブルゾンが
ずり落ちた
これ、大野さんの…
持ち主を探すため
周囲を見回すと
外から差し込む白けた光に
少し目が眩んだ
「…大野さんっ?」
慌てて大きめの声をかけても
大野さんの返事はなくて
丸椅子から立つと
寸胴から立ち上がる微かな湯気が目に留まる
近付いて覗き込めば
俺のとは全く違う
具材が入ったスープがくつくつと音を立てていた
握手のあと…何度も何度も
いろんなパターンを試してくれてたけど
スープ作りからやりはじめたのか…
1人で朝までやってた…?
あの脚で…?
「大野さんっ!?どこですかっ?」
もう一度声をかけても
返事はやっぱりなくて
ふと下ろした視線の先
店に繋がる扉の前に
杖が転がってるのに気づいて
一瞬にして不安な気持ちに駆られて
店の方を覗く
隈無く見ても姿はなくて
さらに不安が襲ってくる
そんなに高い段差でもない
店に入るときですら
脚が引っ掛かるほどの不自由さなのに…
なにかあった?いや…
なにがあった…っ!?
トイレを覗いても、
店の前に出て周囲を見渡しても
「…どこにも、いない……」
もう一度店内に戻ろうかと踵を返した時
「…離して…お願い……」
小鳥の囀ずりの中微かに聞こえた声
聞こえた方、店の角にそっと近付くとそこには
男の腕の中に包まれている大野さんが、いた