第28章 秋の夜長に春ひとつ
…えっと…俺の耳おかしいのかな……
い、一緒にいて…って聞こえた気がするけど
整理がつかない言動に
思考回路は停止して
呆然としてたら
「あ、へ、変な意味じゃ…ないよっ?
ここの勝手わかんないし、その……
あの………」
黙る俺を少し潤んだ瞳が見上げてくる
なんかやけに可愛い反応に
「え、カズ…くん?」
「…あ、すんません…笑っちゃって」
思わず笑みがこぼれてしまってた
さっきのラーメンを作る指示してた
大人びた表情とは違う…
子供みたいに必死なその表情は
さらに可愛らしさを増してて
「俺でよければ…一緒にいますよ」
「…ほんとに?いいの?」
「もちろん。俺の方こそ…
あなたに助けてもらってるんだし」
赤らんだ顔で
何回も瞬きをしながら
見つめてくる表情はまた幼くて
…
やっぱこの人可愛いな…
男から可愛いとか言われても
嬉しくないだろうけど
「えと、じゃあ…よろしくね?」
「はい、よろしくお願いします…」
照れ笑いを浮かべながら
ゆっくり差し出された手に
そっと手を重ねる
ぎゅって握手してくる手も
柔らかくて
なんだろな…
この人のことよく知らないけど
なんか、落ち着く…
とっぷりと暮れた月明かりの光を
窓から浴びながら
そんなことを思っていた