第28章 秋の夜長に春ひとつ
閉じたノートにまた一礼して
俺の手元にスッと差し出された
「…この通り…か…」
受け取ると大野さんは小さく呟いて
視線を少し、足元に下げてから
何かを考えてるのか
数回瞬きしたあと、
ゆっくり立ち上がった
杖を支えにしながら
調味料を置いてる前に立つと
「ごめん、カズくん?
手伝ってもらえる…?
僕利き手塞がってるから
やりにくくて…」
「あ、すんません…っ」
困ったように笑う大野さんに
慌てて駆け寄り隣に立って
補助役に徹した
言われた通り手伝いながら
いつもと違うことにすぐ気付いた
ベースのしゅうゆ…
レシピより多め…なのか
さっきの一瞬考えただけで
違う分量を的確に指示できる…
これが絶対味覚…
「…ん?どうしたの?」
「あ、いや…あの一瞬で
こんな微妙な違いもわかるんだなって…」
手を止めた俺にまた柔らかな微笑みが向けられて
「たぶん、だよ?」
少し困ったように微笑む大野さん
俺を思って濁してくれてるのかな…
はっきり言わない優しさに
年上の男性に少し…
可愛さを感じながら
一杯のラーメンが出来上がった