第28章 秋の夜長に春ひとつ
「知って…るんですか…?
親父さんの味…」
「うん、小さい頃から親しんだ味…」
言葉の途中で
カウンターから飛び出して
「不躾と承知でお願いがあります!
俺にチカラを!
貸してもらえませんか…っ!」
躍り出た勢いのまま
目の前で頭を下げた
「俺!ここの味が好きでっ!
大好きな味残したくてっ!
親父さんが亡くなってから
お袋さんに無理言って…
店やらせてもらってるんですけどっ!
レシピ通りに作っても…っ!
全然!同じ味にならなくて…!」
ずっと一人で抱えてた思いは
止まることなく
言葉になって溢れた
捲し立てるように伝えてたら
肩にそっと手が添えられて
ゆっくりと体を起こされた
「…そんなに、好きなんだ…」
「は、はい…!だからっ…」
少し潤んだ瞳に
また慌てて声を重ねて
細い肩を掴んだら
「僕で…良ければ…」
見下ろす瞳の優しさと
声色に指先の力が緩んだ
「い、いんですか…?」
「うん…僕も親父さんの味…
好きだし…それに…」
「…?」
「僕のチカラが役に立つなら…
喜んで協力、させて?」
目尻の皺が深くなるほど
にっこりと笑ってくれるから
感謝の気持ちで深く頭を下げた